外国人従業員から「日本で払った年金は、帰国したら全部戻ってくるのですか」と質問されたことはありませんか。

外国人雇用で関心の高い「脱退一時金」について、大きな改正が決まっています。現在、支給額の計算に使われる加入期間の上限は最大5年ですが、今後は最大8年へ引き上げられる予定です。

ただし、2026年8月28日現在、すでに8年分を請求できる制度になったわけではありません。厚生労働省の最新資料では、制度の見直しは「公布から4年以内の政令で定める日」から施行され、8年への引上げも政令で措置予定とされています。

背景には、育成就労3年と特定技能1号5年を合わせた、最長8年のキャリアがあります。企業が誤った説明をしないために、現行制度と将来の改正を分けて解説します。

1.そもそも脱退一時金とは

外国人従業員が脱退一時金について会社担当者へ相談する様子

脱退一時金は、日本国籍を持たない人が日本の国民年金や厚生年金保険に加入した後、日本を離れる場合などに、一定の要件を満たすと請求できる制度です。

代表的な要件は、日本の公的年金の被保険者ではないこと、加入期間等が6か月以上あること、老齢年金の受給資格期間である10年を満たしていないこと、日本国内に住所がないことなどです。原則として、資格を喪失して日本に住所を有しなくなった日などから2年以内に請求します。

ただし、これは支払った社会保険料が全額返ってくる制度ではありません。国民年金と厚生年金で計算方法が異なり、加入月数や標準報酬などを基に支給額が決まります。個別の可否や金額は、日本年金機構の最新案内で確認する必要があります。

2.現行制度の計算上限は最大5年

現行制度の脱退一時金の計算上限が5年であることを示すカレンダー

2021年4月の改正以降、脱退一時金の支給額計算に使われる加入期間の上限は、36月から60月、つまり最大5年へ引き上げられました。

たとえば、現行制度で厚生年金に7年間加入していたとしても、支給額の計算に7年すべてが反映されるわけではありません。「日本で働いた年数=その全期間分の脱退一時金」ではないことを、企業側も正しく理解しておきましょう。

日本年金機構の2026年度案内も、国民年金・厚生年金ともに計算上限を60月(5年)として掲載しています。

3.今後、5年から8年へ引き上げ

脱退一時金の上限が今後5年から8年へ変わる予定を示す図

2025年に成立した年金制度改正法を受け、脱退一時金の支給額計算に使う加入期間の上限は、今後5年から8年へ引き上げられる予定です。

ここで最も大切なのは、「改正が決まったこと」と「新しい計算がすでに始まったこと」は別という点です。

厚生労働省は、脱退一時金制度の見直しを「公布から4年以内の政令で定める日」から施行すると説明し、5年から8年への支給上限の見直しも政令で措置予定としています。2026年8月28日現在、日本年金機構の現行案内はまだ最大5年です。

したがって「脱退一時金が8年になった」と断定するのではなく、「今後、上限が5年から8年へ引き上げられる」と説明するのが正確です。施行日、経過措置、どの請求から新制度が適用されるかは、今後の政令や公式発表を確認してください。

4.なぜ8年なのか

育成就労3年と特定技能1号5年で合計8年となるキャリア図

見直しの背景には、日本で働く外国人の滞在・就労期間の長期化があります。技能実習に代わる育成就労制度は原則3年、その後に特定技能1号へ移行すると通算上限5年です。

育成就労3年 → 特定技能1号5年 → 合計最大8年

この8年間のキャリアを歩む外国人が増えることを見込み、脱退一時金の計算上限も8年に対応させる考え方です。脱退一時金8年への改正は、単なる受取額の話ではなく、外国人雇用が短期から長期へ変わることを示しています。

5.再入国許可がある間の請求も見直し

再入国許可と脱退一時金の請求時期を確認する外国人従業員

もう一つ重要なのが、請求できるタイミングの見直しです。現行制度では、再入国許可を受けて出国した場合でも、要件を満たせば一時帰国中に請求できることがあります。

しかし改正後は、再入国許可またはみなし再入国許可が有効な間は、原則として脱退一時金を支給しない仕組みが予定されています。こちらも、2026年8月28日現在は将来の改正事項です。

一時帰国で受給した後、日本に戻って再び働くと、それまでの加入期間が老齢年金につながらなくなる可能性があります。その問題を防ぎ、長期就労する外国人の年金受給権を守ることが見直しの狙いです。

6.受給すると加入期間が将来の年金から消える

脱退一時金の受給で年金加入期間が消えることを説明する図

外国人本人に必ず伝えたいのは、脱退一時金を受給すると、その計算の基礎となった加入期間は将来の年金計算からなくなることです。

目先ではまとまったお金を受け取れますが、今後日本へ戻る、特定技能2号へ移行する、永住や長期在留を考える、将来日本の老齢年金を受け取るといった可能性がある人は、慎重に判断する必要があります。

会社が「帰国するなら絶対にもらった方が得」と安易に案内するのは避けましょう。本人の将来計画を確認し、必要に応じて年金事務所や社会保険の専門家へ相談することが大切です。

7.企業がしてはいけない対応

会社が社会保険資格を正しく管理する様子

外国人従業員から「一時帰国するので社会保険を抜けたい」「脱退一時金を受け取り、また日本へ戻りたい」と言われても、会社が希望だけで資格を自由に喪失させることはできません。

雇用関係が続いているのに、脱退一時金を受けるためだけに形式上社会保険から外す対応は行わないでください。社会保険の資格取得・喪失は、実際の雇用関係や適用要件に従います。

企業の役割は、請求を勧めることではなく、制度のメリットと将来への影響を偏りなく伝えることです。判断に迷う場合は、管轄の年金事務所へ確認しましょう。

8.外国人雇用を長期視点で考える

外国人材の長期キャリアと定着を支援する企業の様子

育成就労、特定技能1号、特定技能2号という制度の流れを見ると、日本の外国人雇用は「数年働いて帰国する」だけでなく、長期間、日本企業でキャリアを形成する方向へ変化しています。

企業にも、採用や在留資格の手続だけでなく、教育、キャリアアップ、特定技能2号への移行、家族との生活、社会保険、定着までを見通す姿勢が求められます。

脱退一時金の「5年から8年へ」という改正は、単に受取額が増えるという話ではありません。その背景には、日本で働く外国人の滞在・就労期間が長くなるという大きな変化があります。

ワイズリンクス行政書士事務所は、行政書士・登録支援機関・有料職業紹介事業者として、外国人材の採用から在留手続、特定技能、採用後の支援・定着まで一貫して企業をサポートしています。外国人雇用を長期的に整えたい企業の方は、お気軽にご相談ください。

※本記事は2026年8月28日時点の一般的な情報です。施行日や経過措置を含む最新情報は、厚生労働省・日本年金機構等の公式発表をご確認ください。